財務諸表の見方・読み方・分析

【徹底解説】財務分析 収益性・安全性・生産性・成長性の分析手法

 

財務分析とは、財務諸表を様々な観点から分析して、企業の経営状態の良否を判断することです。企業の経営者はもちろん、株式投資をする上でも重要な分析になります。この記事では、財務諸表を使った財務分析の方法を紹介していきます。

分析1.収益性分析

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まずはじめに、収益性分析について解説していきます。

 

売上高利益率

売上高利益率には、大きく4つの種類があります。

  • 売上高総利益率
  • 売上高営業利益率
  • 売上高経常利益率
  • 売上高純利益率

 

これらの詳細は損益計算書の解説ページに記載しています。

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営業CFマージン

売上高営業利益率のキャッシュフロー版です。

営業CFマージン=営業CF/売上高

 

ROA 総資本利益率

総資本利益率とは会社が運営している資本を利用していかに効率よく利益を上げたかを測る指標です。

総資本利益率=当期純利益/総資産

 

ROE 自己資本利益率

自己資本利益率とは株主が拠出した自己資本を利用していかに効率よく利益を上げたかを測る指標です。日本では、この値は15%程度あると高い部類に入ります。

自己資本利益率=当期純利益/自己資本
(自己資本=純資産-新株予約権-少数株主持分)

 

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資本回転率

資本回転率とは売上高に対して資本がどれだけ回転しているかを表すもので、資本の利用効率を表します。資本回転率が悪いとキャッシュの流れが滞る原因になります。

・固定資産回転月数 (=固定資産×12/売上高)
・売上債権回転月数 (=売上債権×12/売上高)
・在庫回転月数 (=棚卸資産×12/売上原価)
・買入債務回転月数 (=買入債務×12/売上原価)

いずれも、期間が短い方が効率的に資産運用をしているということになります。

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分析2.安全性分析

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次に、財務の安全性について説明します。安全性を見ることで企業の財務が健全で倒産することがないかを知ることができます。安全性は、企業体力と言い換えることできます。

 

以下6つの安全性指標は貸借対照表単独でも分析することができます。

  • 流動比率
  • 当座比率
  • 自己資本比率
  • 純資産比率
  • 固定比率
  • 固定長期適合率

 

貸借対照表単独での安全性分析については、以下の記事をご覧ください。

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債務償還年数

債務償還年数=有利子負債/営業利益
または
債務償還年数=有利子負債/営業CF

現在の有利子負債を営業利益または営業CFによって何年間で返すことができるかを測る指標です。有利子負債はキャッシュによって返済されるものなので、企業の財務分析では営業CFベースの債務償還年数を用いていきます。債務償還年数が1年以内であれば、かなり優良といえます。

 

インタレスト・カバレッジ・レシオ (ICR)

ICR=(営業利益+金融収支)/支払利息
または
ICR=(営業CF+金融収支)/支払利息

有利子負債から発生する利息に対して、何倍の営業利益または営業CFを得ているかを測る指標です。債務償還年数同様、営業CFベースで企業分析を行います。ICRが1倍を下回ると事業収益から利息を支払う能力がないことを示します。日本の上場企業は平均すると5倍程度のようです。

 

損益分岐点比率

損益分岐点比率とは、損益分岐点分析によって求めた損益分岐点売上高と実際の売上高の比率のことです。この数字は小さければ小さいほど優良といえます。

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手元流動性

上記のほかに、流動的な資金の水準を表す手元流動性(=現金・預金+短期保有の有価証券)なども、安全性指標として使われる場合があります。

手元流動性とは、現・預金と、償還期限あるいは売却期限が1年以内を予定しているの有価証券の合計額のことをいいます。

 手元流動性 = 現金・預金 + 1年以内に売却予定の有価証券

つまり、手元流動性は換金性が極めて高い資産のことで、これが多いほど企業の支払い能力が高いことを示します。手元流動性は企業の保有しれいるキャッシュとほぼイコールと考えてよいと思います。

手元流動性が多ければ、借入金の返済に困らないなどのメリットがありますが、逆にデメリットもあります。

例えば、手元流動性は利子や配当金などで利益をもたらしますが、これが事業の利益率より低い場合、相対的に見ると手元流動性の資産は有効活用できていないということになります。また、最近では手元流動性が多いと、企業買収のターゲットになるというデメリットもあります。

また、手元流動性を売上高で割った値を手元流動性比率といいます。

 手元流動性比率=手元流動性/(売上高/12) 【ヶ月】

日本の上場企業の手元流動性比率は、およそ1~1.5ヶ月です。

 

債務超過とは

債務超過とは、貸借対照表上で、資産の合計より負債の合計が上回っていて、資本がマイナスの状態のことです。債務超過になると、資産を全て売却しても負債の全額を返済できないことになります。この状態になると、会社整理が必要になります。

ちなみ、債務超過に陥って企業が破綻すると、最も損失を被るのが株主です。なぜなら法令によって、株主への資金の返済は一番最後と決められているからです。言い換えると、株主はそれだけ企業破綻のリスクを大きく背負っていることになります。

 

分析3.生産性分析

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次に、企業の生産性について説明します。生産性を見ることで企業の投入した経営資源に対するアウトプットを知ることができます。

 

付加価値

付加価値とは、企業のヒト・モノ・カネを使って新たに生み出した価値を意味します。付加価値の計算方法には、中小企業庁方式と日銀方式の2種類があります。

※中小企業庁方式
中小企業庁方式では、付加価値は次のように求められます。

付加価値 = 売上高 - 外部購入価値

外部購入価値には、材料費、購入部品費、運送費、外注加工費などがあります。

付加価値の図式例

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※日銀方式
日銀方式では、付加価値は次のように求められます。

付加価値 = 経常利益 + 人件費 + 貸借料 + 減価償却費 
           + 金融費用 + 租税公課

中小企業庁方式では、付加価値は売上高から外部購入分の価値を差し引いたものという考え方に対し、日銀方式では、付加価値は製造課程で積み上げられていくという考え方になっています。

売上高に占める付加価値の割合を付加価値率といいます。計算式は次ぎのとおりです。

付加価値率 = 付加価値/売上高

付加価値率が高いと、会社が商品に対して付け加えている付加価値が大きいというとこを示し、粗利益率等の基本的な収益率も高いと考えられます。

 

労働生産性

労働生産性とは、従業員一人当たりがどれだけ付加価値を生み出しているかを示す指標です。

 労働生産性 = 付加価値/平均従業員数

労働生産性を上げるには次のような方法があります。

①付加価値の増加
中小企業庁方式では、付加価値は売上高から外部購入価値を引いたものなので、付加価値を増加させるためには、部品の内製化をして外部購入費を減らすなどの方法があります。

②従業員数の削減
早期退職の募集などで従業員数を減らすなどの方法があります。また、アウトソーシングを活用して従業員数を減らすという方法もあります。アウトソーシングは、活用の仕方によっては、外部購入価値の減少にもつながります。

ただし、メーカーなどの場合、産業機械の導入して従業員を削減することにより労働生産性を高めた場合、資本生産性を落とすことになります。

 

労働生産性をブレークダウン

労働生産性は、様々な指標により細分化することができます。

(売上高による細分化)

労働生産性 = (売上高/平均従業員数) × (付加価値額/売上高)
= 従業員一人当たりの売上高 × 付加価値率

(総資本による細分化)

労働生産性 = (総資本/平均従業員数) × (売上高/総資本)
× (付加価値額/売上高)
= 資本集約度 × 総資本回転率 × 付加価値率

(人件費による細分化)

労働生産性 = (人件費/平均従業員数) / (人件費/付加価値額)
= 従業員一人当たりの人件費 / 労働分配率

(設備投資による細分化)

労働生産性 = (有形固定資産/平均従業員数) × (付加価値額/有形固定資産)
= 労働装備率 × 設備生産性

 

労働装備率

労働装備率とは、企業の従業員一人当たりの有形固定資産を示します。

 労働装備率 = 有形固定資産 / 平均従業員数

従業員一人当たりに対する設備が多いほど、労働装備率は大きくなります。製造業は、労働装備率が大きい傾向にあります。

労働装備率が大きいほど、企業の労働生産性は向上します。

 

労働分配率

労働分配率とは、付加価値に占める人件費総額の割合のことをいいます。

 労働分配率 = 人件費 / 付加価値

労働分配率と賃金水準の関係は、業種や企業によって大きく異なります。また、同じ企業でも、設備投資額や、取扱商品、製品などに大きな変化があれば、賃金水準が変わらなくても、労働分配率が大きく変わることがあります。

日本の企業の労働分配率は70%台前半で推移しています。

労働分配率は、国民所得に占める賃金の割合のこというときもあります。

 労働分配率 = 賃金 / 国民所得

 

資本生産性

資本生産性とは、有形固定資産あたりに生み出す付加価値の割合を示す指標です。

 資本生産性 = 付加価値 / 有形固定資産

資本生産性が高い会社というのは、少ない設備で大きな付加価値を生み出しているということになります。

一般的に、資本生産性は労働生産性とトレードオフの関係になります。例えば、産業機械の導入により自動化を図ったメーカーの場合、従業員を減らしたことで労働生産性が上がりますが、設備を増やした分だけ資本生産性が下がることになります。

分析4.成長性分析

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どれだけ、収益力が高く、財務体力があっても成長性のない会社は、魅力に欠けるものです。ここでは、企業の成長性について説明します。

成長性を調べるには、財務諸表から得られるデータを時系列(3~5年くらい)に並べてみる必要があります。以下は成長性を調べる上で重要な指標です。

 

売上高成長率

売上高成長率 = (当期売上高 - 前期売上高)
/ 前期売上高 × 100

売上高の伸びがわかります。売上高が伸びているということは、前年に比べて、「市場を拡大している」か、「シェアをアップさせている」かあるいは、「販売単価の高い商品を売っている」ことになります。

 

経常利益成長率

経常利益成長率 = (当期経常利益 - 前期経常利益)
/ 前期経常利益 × 100

経常利益増加の度合いがわかります。経常利益成長率>売上高成長率の関係になる企業は良好な成長をしていると見ることができます。

 

その他の成長性指標

総資産増加率 = (当期総資産 - 前期総資産)
/ 前期総資産 × 100

人件費増加率 = (当期人件費 - 前期人件費)
/ 前期人件費 × 100

このふたつは、将来の成長に必要な投資をすると増加する値です。しかし、会社のキャパシティ以上に増加するのは良くありません。一般的に、この二つの指標は、売上高成長率を下回っていればバランスのとれた成長をしていると見ることができます。

このほかに、次のような成長性を見る指標があります。

自己資本増加率 = (当期自己資本 - 前期自己資本)
/ 前期自己資本 × 100

(自己資本 = 純資産-新株予約権-少数株主持分)

株式配当増加率 = (当期株式配当 - 前期株式配当)
/ 前期株式配当 × 100

 

成長性を表す指標として使われるCAGR

CAGRとは、Compound Annual Growth Rateの略で、複利計算によって求めた成長率のことです。CAGRは、年平均成長率と訳されます。(CAGRは、シーエージーアールと読みます)

 

詳細は以下の記事をご覧ください。

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継続可能成長率(サステイナブル・グロースレート)

継続可能成長率とは、企業が自己資本の割合を変えないとしたとき、永続的な成長がどの程度できるかを表すものです。売上高の増分をΔS、売上高をSとすると、売上高の継続可能成長率は次の式で表されます。

ΔS/S=売上高純利益率×内部留保率×総資産回転率/自己資本比率

ただし、この式にはいくつか前提があります。

  • 企業は成長のために新株を発行しない
  • 企業は配当性向と自己資本比率を一定に保つ(内部留保して自己資本が増えると、同じ割合で負債も増える)
  • 総資産回転率を一定とする(売上の増分に比例して総資産も増える)

 

上の式の右辺を分解すると次のようになります

右辺=
(純利益/売上高)×(1-配当性向)×(売上高/総資産)/自己資本比率

さらに簡単にすると

右辺=(1-配当性向)×純利益/純資産
=(1-配当性向)×ROA /自己資本比率

したがって、継続可能成長率は

継続可能成長率=(1-配当性向)×ROA/自己資本比率
=(1-配当性向)×ROE

すなわち、この理論で行くと企業が継続可能な成長率を超えて成長していこうと思うならば、配当性向を減らすか、総資産利益率(ROA)を上げるか、自己資本比率を下げる(借入金を増やす)かのいずれかになるということです。(しかし、配当性向を下げれば株主は離れていきますし、借入金を増やせば倒産リスクが大きくなります。)

実際に売上高成長とROAの関係は理想的なのか?

実際に優良と呼ばれる企業で検証してみます。図は武田薬品工業の1995年~2004年までの売上高成長率と継続可能成長率を表したものです。

継続可能成長率 サステイナブルグロースレート

武田薬品の場合、継続可能成長率を超えたのは1994年から2004年の10年間で2年だけでした。これは、武田薬品が着実に成長を遂げていることを意味します。例に出した武田薬品のような成熟してきた企業と新興事業の企業では傾向は全く異なります。(継続可能成長率に近い売上高成長をしている企業としてセブンイレブンがあります。)

 

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セーシン
元リーマン管理職。新規事業、海外駐在、独立起業などの経験を踏まえて、仕事、キャリア、海外、経営に関することを発信しています。リーマン時代の副業歴は15年。 ツイッターアカウントはこちら