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予測財務諸表を作り方・4つのステップ

株式投資をやられている方で、投資先の将来性をきっちり分析したい方は、このブログでも扱っている過去から将来にかけての定性・定量の企業分析が有効です。

そこから、さらに詳しく分析しようとするなら将来の業績予測をしていく必要があります。そこで必要になるのが、予測財務諸表です。

企業分析の参考記事

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この記事では予測財務諸表の作成ステップの概要をご紹介します。

予測財務諸表を作る

予測財務諸表を作成するには、定性分析、定量分析に基づいてその企業が将来どうなりそうかを予想することが重要です。ただし、予測財務諸表の作成の目的は、完璧な財務諸表を作ることではなく、企業が今後どうなりそうなのか?を判断することなので、外からでは将来どうなるかよくわからない科目については適当な仮定を作れば問題ありません。

予測財務諸表で見たいポイントは大まかに次の4つです。

  • 将来の売上高と利益はどうなりそうか?
  • 将来資金が枯渇せずに事業活動を続けられるか?枯渇しそうであれば、どの程度の借入金が必要か?
  • 資金繰りは問題なく、成長のための設備投資をする余力はありそうか?
  • 業績に与える影響が大きいのはどの数字か?(感度分析)

損益計算書の予測

予測財務諸表は、まず損益計算書から行うのが基本です。なぜなら、その企業が将来どの程度の売上をあげて、どの程度の利益を出すのかを見積もらなければ、財務予測がはじまらないからです。

■売上高
売上高は、その企業の製品・サービスが今後どういう伸びを示すのか、市場の伸びやその企業の業界地位などを勘案して予測します。しかし、事業を多数展開していて、製品・サービスごとに売上を予測するのが困難な場合は、アナリスト予想を用いてもよいでしょう。

■利益
利益の求め方には次のようなものがあります。
・前年の売上高利益率を参考にする
(最も簡単な方法ですが)

・直近何年かの費用を変動費と固定費に分けた上で、売上高から費用を計算する
(固定費と変動費の分け方には回帰分析があります。<参考>固変分解)
・原価や販管費を過去のトレンドやその企業のコストダウン計画から予測し、
設備投資の傾向から償却費を予測する。
(かなり精緻なやり方ですが、内部者でないと難しいかもわかりません)

過去のデータを用いて利益を算出する場合、その期だけの特定の要因で発生した損益がないかどうか、会計方針による影響はないかを確認しておく必要があります。

■繰越純利益
繰越純利益は貸借対照表の利益剰余金に加算される数字になるので、求めておく必要があります。繰越純利益は、純利益から配当金と役員賞与を引くことで求められます。過去の実績値(絶対額あるいは純利益に対する割合など)から求めればよいでしょう。

貸借対照表の予測

貸借対照表は、売上高、繰越利益、今後の設備投資計画がわかれば、大雑把に作成することができます。

■売上高からわかる項目
売上高がわかれば、主に売上高に関係する次の科目を計算することができます。
・売上債権(前年までの売上債権回転期間を参考に計算できます)
・棚卸資産(前年までの在庫回転期間を参考に計算できます)
・仕入債務(前年までの仕入債務回転期間を参考に計算できます)

■繰越利益からわかる項目
繰越利益から利益剰余金の積み立て額を求めることができます。

■今後の設備投資計画
有形固定資産が今後どのように増えていくのかを予測するのに必要です。これは外部からではわかりにくいものなので、過去の設備投資の推移から予測する方法があります。

■引当金
これも外部からはどのように変動するかわかりにくい項目なので、引当金は過去の積み上げ額から推定するしかありません。

■その他の項目
以上の過程で求めていない項目は、よほどのイレギュラーが想定されない限りは基本的に前年と同額か売上高に比例して増減すると見ておけばよいでしょう。

■現預金と借入金で調整する
最後の調整は現預金と借入金で行います。今までの過程で現預金がマイナスになってしまうのであれば、借入金を増やさなければなりません。(つまり将来借入金が必要になるということです)

逆に現預金が多くなるのであれば、借入金の返済にあてることも推定できます。

厳密にいうと、借入金が多くなれば、利払いが多くなり損益計算書上の経常利益に影響がでるのですが、過去の実績から利払いの影響が大きくないと考えられるのであれば、影響は無視してもよいでしょう。

キャッシュフロー計算書の予測

損益計算書と貸借対照表ができあがれば、その数字を使ってキャッシュフロー計算書を作成することができます。

キャッシュフロー計算書を読む 読み方、見方

感度分析・シナリオ分析

予測財務諸表はあくまで予測なので、現実は予測どおりの数字にならないほうが普通です。したがって、現状考えられるリスクをある程度に考慮に入れて予測数字を立てることが重要になります。そのために行うのが感度分析・シナリオ分析です。

感度分析とは、ある特定の指標が予測からぶれたときに財務に及ぼす影響を明らかにするための分析です。感度分析はその企業にとってどの指標が財務に大きな影響を与える要素なのかを把握しておくための分析です。

シナリオ分析とは、企業に影響を及ぼすできごとをいくつか想定しておいて、そのできごとが起きたときに財務に及ぼす影響を明らかにするための分析です。感度分析がひとつの指標の変動しか見ないのに対し、シナリオ分析はシナリオごとに複数の指標を動かして財務に与え影響をみるのに使います。

感度分析の例を掲載したページ

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