財務諸表の見方

棚卸資産とは?FIFO、LIFOなどの評価基準、評価方法について解説

この記事では、その棚卸資産について解説していきます。

棚卸資産とは

棚卸資産とは企業の商品や貯蔵品、在庫を表します。貸借対照表では資産の欄に記載されます。棚卸資産は現金化する際に営業努力を必要とします。

また、商品の陳腐化、劣化によって現金化できないケースがあります。

そのため棚卸資産が極端に多いのは好ましい状態とは言えません。

棚卸資産の種類

棚卸資産は、在庫の状態によって次のように分類されます。

商品:取引先から仕入れた完成品の在庫
製品:自社で生産した完成品の在庫
原材料:取引先から仕入れた原材料の在庫
半製品:生産途中の未完成品で、そのまま販売できる在庫
仕掛品:生産途中の未完成品で、そのままでは販売できない在庫
貯蔵品:荷造用品や事務用消耗品、工場用消耗品など

棚卸資産の評価基準

棚卸資産には、さらに原価法と低価法という2つの評価基準があります。

原価法

原価法とは棚卸資産を取得時の原価で評価する方法です。(ただし、棚卸資産に大きな含み損が出たときは、強制的に低価法での評価が要求されます。)

低価法

低価法とは棚卸資産の取得原価と時価を比較して、どちらか低い方の価格で評価する方法です。低価法では、商品価値が仕入れ時よりも下がっている場合、貸借対照表の簿価を時価に直し、その分を損益計算書の方で、損失計上する必要があります。(その際の項目は、売上原価の内訳か、営業外損失になります。)

ただし、在庫価値が上がった場合は特に何の処置もしません。したがって、低価法を採用すると、棚卸資産の時価は貸借対照表の簿価と同じかそれを上回っていることになります。

日本では原価法、低価法のいずれを用いても良いことになっていますが、ほとんどの企業が原価法を用いて棚卸資産の評価を行っていました。

しかし、日本の会計基準を国際基準に合わせる動きがあり、その中の一環として棚卸資産の評価基準は欧米で主流の低価法に合わせるようになりました。実際には2008年度の会計年度から上場企業には低価法での評価が強制適用されています。

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棚卸資産の評価方法

棚卸資産の評価方法は、いくつかありますが、ここでは先入先出法(FIFO)、後入先出法(LIFO)、平均法、売価還元法の4つを紹介します。

先入先出法(FIFO)

先入先出法とは、仕入れや製造の時期が古い棚卸資産から順に販売されていくとした方法です。インフレのときは、現在の販売価格が高く、昔の原価が安いため、利益の計上は大きくなります。しかし、原価の高いものが棚卸資産として残るため、棚卸資産の計上も大きくなります。

後入先出法(LIFO)

後入先出法とは、仕入れや製造の時期が新しい棚卸資産から順に販売されていくとした方法です。インフレのときは、現在の販売価格が高く、今の原価も高いため、利益の計上は小さくなります。しかし、原価の安いものが棚卸資産として残るため、棚卸資産の計上も小さくなります。

平均法

平均法とは、期首在庫と一定期間の仕入原価の平均で、棚卸資産を算出する方法です。インフレ時の利益計上は先入先出法よりは小さくなりますが、後入先出法よりは大きくなります。平均法は、上場企業の約半数が採用している評価方法です。

※棚卸資産の評価方法と利益の関係
(物価が上昇しているとき)

期末在庫の価格 売上原価 利益
先入先出法
後入先出法
平均法

(物価が下落しているとき)

期末在庫の価格 売上原価 利益
先入先出法
後入先出法
平均法

このように、評価方法によって、売上原価と貸借対照表上の棚卸資産の金額が異なるので、評価方法には注意を払う必要があります。

売価還元法

売価還元法とは、平均的な原価率を算定しておき、期末の棚卸資産の販売価格から原価を逆算する方法です。商品点数が多く、すべての商品の単価を計算するのが困難場合に用いられます。

棚卸資産の評価が利益に及ぼす影響(例)

棚卸資産の評価方法の違いが、利益にどのような影響を与えるか例を元に説明します。ある商品Aを次のように仕入れ・販売したとします。

仕入 販売
仕入量
(個)
仕入単価
(円/個)
販売量
(個)
販売単価
(円/個)
期首在庫 500 100
4月 200 120
6月 200 150
7月 150 300
9月 150 300

粗利益は、

粗利益 = 販売高 - 仕入高 = 販売量×販売単価 - 仕入量×仕入単価

となります。

ここで、仕入高は棚卸資産の評価方法によって変わります。

先入先出法の場合
古い在庫の単価を計算するので、粗利益は次のようになります。

粗利益 = 300個×300円 - 300個×100円
= 60,000円

後入先出法の場合
新しい在庫の単価を計算するので、粗利益は次のようになります。

粗利益 = 300個×300円 - 200個×150円 - 100個×120円
= 48,000円

平均法の場合
仕入単価は、全在庫の単価を平均して計算するので、粗利益は次のようになります。

粗利益 = 300個×300円 - 300個×115.6円
= 55,320円

評価基準・方法が与える影響

棚卸資産の評価方法や評価基準は損益計算書の利益に大きく影響を及ぼします。しかし、在庫の仕入れにおいて実際の現金やりとりには影響しないため、キャッシュフロー上はどのような評価をしても変わりはないということになります。

棚卸資産回転率とは

棚卸資産回転率とは、棚卸資産の回転効率を表す指標のことで、在庫水準が売上原価換算でどの程度あるかを表します。

棚卸資産回転率 = 売上原価/棚卸資産

棚卸資産の回収効率がよいほど、棚卸資産回転率は上がります。また、同じような指標で、棚卸資産回転月数というものがあります。

棚卸資産回転月数 = 棚卸資産×12/売上原価

これによって、棚卸資産が何ヶ月分の売上高に相当するかわかります。こちらは少ない方が効率がよいということになります。また、月数ではなく日数でみる場合もあります。

棚卸資産回転率は、売上原価ではなく売上高をベースに計算する場合もあります。その場合は、売上高総利益率の変化が棚卸資産回転率に影響を及ぼすので、注意する必要があります。

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棚卸資産回転率の管理

企業の収益管理において、棚卸資産回転率の管理は重要です。過剰在庫で、棚卸資産回転率が低ければ、資金繰りが悪いことになりますが、逆に棚卸資産回転率を高めようとして在庫を減らすと、欠品につながります。

欠品は、表面上コストはかかりませんが、顧客の購買機会を奪うので、売上高に対して機会損失が生じていることになります。さらに欠品は顧客離れを招きやすく、長期の売上低迷の原因にもなります。

棚卸資産回転率の改善ポイント

棚卸資産回転率を改善するには以下の点に留意する必要があります。
①企業の戦略上の優先度と商品ごとの利益率を考えて在庫管理する。
②製造、出荷、販売までのリードタイムを短縮する。