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【顧客の成功を正しく理解せよ】カスタマーサクセスとは何か?【書評・要約】

本日は、おすすめのビジネス書の中から一冊を紹介します。

日本は長らくよい物を作って売り切るというモデルを得意としてきましたが、昨今は顧客のリテンション(維持)を継続するモデルが重視されるようになってきています。

そうした売り切りモデルのマーケティングとの対比で、リテンションマーケティングなどと呼ばれます。

その顧客のリテンションを高めるために必要とされるのがカスタマーサクセスです。

この記事では、そのカスタマーサクセスについて記した書籍「カスタマーサクセスとは何か?」について書いていきます。

カスタマーサクセスとは

カスタマーサクセスとは、文字通り顧客を成功に導くことを意味します。

本書では成功を次のように定義しています。

「成功」は、カスタマーの事業が成長する(ないし生活がよりよくなる)ことに直結する現実の成果

カスタマーサクセスを考える上では、まず顧客の成功を正確に定義することが大切になるのですが、顧客自身もその定義を理解していないケースもあるとしています。

そうした場合は、売り手自身が顧客自身を深く観察することで、顧客の成功を理解する必要があるのでしょう。

なお、本書では、カスタマーというのを単に商品を買ってくれる人ではなく、売り手と長く関係を築いて、継続的に購買をしてもらう人としています。

しかし、この記事では、適宜顧客という言葉使っていきます。

「カスタマーサクセスとは何か」で印象に残ったポイント

本書で印象に残ったポイントを私が知っている従来型の日本企業と対比をしながら3つあげます。

成功を届けられない相手には売らないと覚悟を仕組みをもつ

定義した成功を届けられない相手には、商品やサービスを売るべきではないとしています。

そのような相手は、一度購買をしてくれても、長期に渡って購買をしてくれる(=会社に収益をもたらしてくれる)人にはならないというのです。

私は製造業に長らく携わってきましたが、顧客を選ばずに拡大してきたことが今多くの会社を苦しめていると思っています。

日本の製造業を担ってきた会社の多くは、シェア拡大を目指して市場の中で熾烈な競争に勝ち残ってきました。

その過程で「顧客は神様」だとして、顧客の選別をせずに多くの顧客を相手に商売をしてきました。

その結果、広く万人受けする商品ばかりを出すようになり、尖った商品はどんどんなくなっていきました。

そうして、尖った商品が得意な欧州勢と万人受けしてかつ安価な中国・韓国勢との間で、差別化が難しくなってしまったのです。

実際に私が経験した社内会議でもあちらを立てれば、こちらが立たずの議論が繰り返されて、最終的に一部の顧客しか使わない機能が盛り盛りになった製品が世の中に出されるようになっていました。

顧客がイライラする負荷を無くす

カスタマーサクセスを達成するには、顧客のイライラを無くすことが大事だとしています。

この点については、マシュー・ディクソン氏の著書にある調査結果を引用する形で、以下2点を出しています。

  • 期待を上回るサービスで顧客を感動・満足させてもロイヤルティ向上へのインパクトは 低い
  • エフォートレスを追求することでロイヤルティ消滅を防止する方が、はるかにインパクトが高い

ここで書かれているエフォートレスとは、直訳すると努力のいらないという意味ですが、著者は文脈からは「超不快の排除」という意味合いが適切だとしています。

つまり上記2つを簡単に言うと、素晴らしい商品を出す前に、顧客が面倒くらいと思うポイントを潰す方が、継続してお客さんになってもらえるということです。

そしてもう一つ、リンクトインのカスタマーサポート部門のモナコ氏の言っていることも言及しています。

古い価値観だと、カスタマーから問い合わせがあった時に『こちらでは分かりかねます。担当者にお繫ぎしますのでそちらでお願いします』と答えても問題ないと思うでしょう。 しかしカスタマーファーストの精神をもつ弊社では、電話を受けたその人が責任を持って カスタマーの問題を解決する義務があるんです。同時にカスタマーを教育して『 次にその問題が生じた時はここに電話せずに自分で解決してくださいね』と伝える必要もあるんです

顧客に問題解決を委ねるというのは、一見乱暴なことのように思いますが、顧客にとって重要なのはイライラなく素早く問題解決できることです。

私は以前旅行サイト経由で予約した宿にチェックイン時間について問い合わせをしたことがあります。

海外の友人のために宿をとったのですが、飛行機の遅れにより宿が指定しているチェックイン時間に間に合わないことになったので、一報を入れようと思ったのです。

ところが、その宿の電話番号にかけても「現在使われておりません」と言われて、つながらなかったので、予約を仲介したサイトのカスタマーサポートに連絡しました。

そのカスタマーサポートを介してチェックイン時間の遅れの交渉をやっていたのですが、30分ほど何度もやりとりしてラチが開かないと思い最終的に連絡先を教えてもらって、自分で直接宿に電話して解決しました。

実は、このとき私がカスタマーサポートに一番して欲しかったのは、宿の新しい連絡先を教えてもらうことでした。

少なくとも電話がつながらないことに仲介サイトの問題があったようには思えなかったので、私が直接話をすることで解決させたかったのです。(その方が明らかに話が早いので)

つまり先ほどのモナコ氏が言っている「自分で問題解決できる方法を教えてもらうこと」が大事だったのです。

会社が問題解決するのに時間がかかるようなら、このように顧客が自ら簡単に問題解決できる方法を教える方が実際には満足度が高まるわけです。

プロダクトチームとカスタマーサクセスチームが密に連携する

プロダクトチームはカスタマーサクセスチームと密に連携して商品の開発・改善に努めるべきだとされています。

こんなことは当たり前のことと思うかもしれませんが、機能別の縦割り組織になっていることが多い大企業では、プロダクトチームとカスタマーサクセスチームが十分に連携をとれていないことなど日常茶飯事です。

しかも古いメーカーだと、そもそもカスタマーサクセス部門というものがありません。

さらに、メーカーから一次卸売店、二次卸売店と、実際に製品を使うエンドユーザーまで長い流通チャネルがあります。

そのため、そもそも誰がカスタマーなのか?そのカスタマーの成功とは何かを十分に定義できない状態のままということも珍しくありません。

まとめ

以上が「カスタマーサクセスとは何か?」の感想でした。

本書にもありますが、昨今大きな成功を収めている会社はこのカスタマーサクセスを非常に大事にしていて、GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)がその例として挙げられています。

逆に言うと、モノでの差別化が難しくなった従来型の日本企業は、こうしたカスタマーサクセスの考えを競合に先駆けて取り入れて顧客のリテンションを高めることが、今後の大きな差別化要素になっていくのでしょう。