財務諸表の見方

粉飾決算【3つの基本パターンを解説】

粉飾決算とは、人為的に決算書の数字を操作(粉飾)した決算のことです。粉飾は、主に利益を過大に見せるために行われます。

利益を過大に見せることで、会社あるいは経営者の信用失墜を防ごうとするわけです。(なお、税金逃れのために利益を過小に見せる場合があります。これを逆粉飾といいます。)

この記事では、財務会計の基礎として、粉飾決算でよくあるパターンを解説していきます。

粉飾決算の3つの基本パターン

粉飾決算には大きく、次の3パターンがあります。
パターン① 貸借対照表の資産を増やし、損益計算書の売上・利益を増やす。
パターン② 貸借対照表の負債を減らし、損益計算書の売上・利益を増やす。
パターン③ 貸借対照表の資産を増やし、損益計算書の費用を減らす。

パターンごとの主な手法をいくつか紹介します。

パターン①

売掛金を増加させる

売掛金の増加は、粉飾の中でも安易にできるケースです。これは架空伝票などで、売上を水増しするのですが、架空の売上には売上原価が計上されないので、結果として利益を水増しできます。

翌期の売上を今期に計上する

期末に、取引先に翌期分まで商品を出荷しておいて、自社のほうでは今期分と処理するケースです。ただし、これは商業慣習上、ある程度は許容範囲とされますが、あまりにも額が大きい場合は粉飾と見なされるでしょう。

資産の評価益を計上する

棚卸資産や有価証券、不動産などの評価益を不当に引き上げて、特別利益等で計上するケースです。

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パターン②

子会社や関連会社に土地等を売却し、売却益を計上する

子会社や関連会社が利用するわけでもないのに、将来買い戻す名目で土地等を売却し、売却益を計上するケースです。

パターン③

棚卸資産を増加させる

売上原価は、期首の商品在庫に当期の仕入額を足して、期末の商品在庫を引いて計算します。したがって、棚卸資産を架空計上したり、不良在庫を計上したりすれば、期末の商品在庫が大きくなり売上原価が減少し、結果として利益を水増しできます。

少額の固定資産を資産計上して償却していく

税法上は固定資産の基準を「耐用年数1年以上で、取得額が20万円以上の資産」と定められています。したがって、この基準に合致しない少額の資産は、費用として計上する必要があります。ところが、この少額の資産を資産計上して、毎年少しづつ償却していけば、費用を抑えることができます。その結果として、利益を水増しすることができます。

固定資産の償却方法を変える

固定資産の減価償却の算出方法を定率法から定額法に変えると、固定資産取得当初のものは費用が圧縮され、利益を水増しすることができます。

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費用を資産として繰り延べる

費用計上しなければならないものを、前払費用などの資産として処理して、費用を過小にするケースです。

当期に仕入れた商品を翌期に計上する

売上高の操作とは逆に、当期分の仕入高を翌期にまわして売上原価を減らす方法です。

回収の見込みのない売掛金の金額を少なく見積もって、貸倒引当金に計上する額を減らす

貸倒引当金を低めに計上して、費用を増やす方法です。

粉飾と正規の処理の線引き

粉飾なのかそうでない処理なのかを明確に線引きするのは難しいです。なぜなら、架空売上などのように明らかにクロというものもありますが、会計原則の解釈によってはギリギリのグレーゾーンというものが存在するからです。たとえば、費用計上か資産計上かは会計原則の解釈によって変わってくる部分があります。また、固定資産の償却方法の変更も妥当と認められれば粉飾にはなりません。

線引きが難しいために、発見されるのも遅れる場合があるわけです。ただし、グレーゾーンというのは摘発されてもおかしくないゾーンなので、特に業績に大きく効いてくるような場面でグレーゾーンでの処理を続けていると摘発される可能性が大きくなります。

粉飾を見分けるには

前述のように線引きが難しい以上、外部から粉飾を見分けるのは非常に難しいものです。しかし、次のようなことを丹念に見ていくことで粉飾発見の糸口となることがあります。

比率分析(特に棚卸資産回転率や売上債権回転率の分析)をする
粉飾は損益計算書をよく見せるために行われますが、見せかけの損益計算書を作ろうとすると、そのツケは貸借対照表に出てきます。したがって、貸借対照表と損益計算書にまたがる比率分析をすることで糸口が見えてくる場合があります。

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市場の現状と財務諸表に表れている内容を比較する
市場が落ち込んでいて、業界内の競合他社がどこも赤字になっているのに、1社だけ黒字をずっと続けているような場合、経営努力という見方もできますが、粉飾を疑ってみる必要があります。

まとめ

いかがでしたでしょうか。粉飾決算のパターンを知っておくことは、粉飾にされないための予防策になります。巧妙に粉飾されているものは、見抜けないとも言いますが、ビジネスパーソンとして最低限基本的なパターンを知っておくことは大事でしょう。

また、粉飾が公になった場合、会社は大きく信用失墜し、上場会社ならば上場廃止は免れないでしょう。また、経営者もその社会的地位を失うばかりか、さまざまな社会的な制裁を受けることになるのでしょう。そのようなことに加担しないという意味でも、粉飾を知っておくことは大事になります。