DCF法で投資判断をするときにNPVと並んでよく使われる判断指標としてIRRがあります。
この記事では、ファイナンス理論の重要概念であるIRRについて詳細を解説していきます。
IRRとは
IRRとは、Internal Rate of Returnの略で、投資に対する収益率(利回り)を表します。
日本語では、内部収益率、内部利益率などと表現します。
IRRが10%のプロジェクトというのは、投資利回り10%のプロジェクトを意味します。
したがって、IRRがわかることで、その投資の利回りがわかるようになるのです。
IRRの事例
IRRを活用する事例として、以下のような投資案件AとBを考えてみます。
(単位:万円)
現在 | 1年目 | 2年目 | 3年目 | 4年目 | |
投資案件A (設備投資) | -100 | 20 | 20 | 20 | 52 |
投資案件B (債券) | -100 | 3 | 3 | 3 | 103 |
Aでは、100万円を投資した後に、毎年20万円のキャッシュを回収でき、4年目のキャッシュ回収時点で設備を32万円で売却します。
Bでは、同じく100万円を投資しますが、100万円を3%のクーポンの付いた債券に投資し、4年目の金利を得た時点で、元本を回収します。
どちらの投資案件も、得られるキャッシュの総額は最終的に112万円で同じなので、総額だけに着目すると、どちらに投資しても優劣がないように見えます。
しかし、DCF法のページの冒頭でも述べているように、お金には時間的な価値があるので、投資案件A、Bは同じ時間軸で比較しなければ、優劣の議論ができません。
そこでIRRを活用します。
IRRの計算方法
IRRは、その投資案件のNPVがゼロになる割引率として求めることができます。
先ほどの事例における、投資案件A(設備投資)のIRRは、次のようになります。
投資案件AのIRR
-100 + 20/(1+r) + 20/(1+r)2+ 20/(1+r)3+52/(1+r)4=0
r = 3.98%
一方で、投資案件B(債券)のIRRは、以下のとおりとなります。
投資案件AのIRR
-100 + 3/(1+r)+3/(1+r)2+3/(1+r)3+103/(1+r)4 = 0
r = 3%
この結果から、IRR(=投資利回り)で見ると、投資案件Aの方が0.98%高いことがわかります。
投資案件AとBの割引率とNPVの関係をグラフで表すと、次のようになります。

それぞれの曲線が横軸と交わるときが、NPVがゼロになり、そのときの割引率(横軸)の値がIRRです。
このようにIRRを使うことで、異なる時間軸で獲得できるキャッシュの利回りを比較することができます。
その他のIRRの事例を以下の記事に載せていますので、合わせてご覧ください。

エクセルを使ったIRRの計算方法
IRRを手計算で求めようとすると非常に時間がかかりますが、エクセルを使うと非常に簡単にできてしまいます。
IRR関数を使ってIRRを計算する
たとえば、1年目に-100の投資をして、2年目以降にリターンを得るというモデルを考えてみます。
1年目 | 2年目 | 3年目 | 4年目 | 5年目 |
-100 | 40 | 35 | 40 | 55 |
この場合、IRR関数を使って、範囲として-100から55までの数字を一括して選択することで、IRRを求められます。

この例だと、IRRは24%になります。

IRR関数を使うと、1セルごとの期間は自動的に1年になります。
複数のIRRが考えられる場合は、「推定値」に予め近い数字を入れておくことで、正しく計算できるようになります。(事例のような単純なケースでは、推定値は必要ありません)
XIRR関数を使ってIRRを計算する
IRR関数だと1年単位での利回り計算しかできませんが、XIRR関数を使うと利回りを日にち単位で分析できるようになります。
XIRR関数は、リターンの取得時期が一定間隔でない場合のIRR(内部収益率)を求める場合にも有効です。
たとえば、ある会社が次のような投資をしたとします。
- 2000年3月10日と7月6日に100万円ずつ投資する
- さらに2001年1月30日に200万円を投資する
- 2003年5月1日に600万円のリターンを得る
表にすると、以下のようになります。
2000/3/6 | 2000/7/8 | 2001/1/30 | 2003/5/1 |
-100 | -100 | -200 | 600 |
この場合、次のようにXIRR関数を活用します。

実際にXIRR関数を使って計算すると、IRRは17%と求められます。

IRRの課題・デメリット
IRRは、プロジェクトを投資利回りの観点から議論できるメリットがある一方で、次のようなデメリットがあります。
- IRRには利回りの観点しかないため、収益の規模を考慮できない。
- IRRは解が出ない場合がある。(下図参照)
収益の規模を考慮できない
IRRは、あくまで収益率だけを求めるものなので、収益の規模を考慮に入れられません。
そのため、IRRを用いるときは、投資の前提条件に合わせて、NPVと併用して運用する必要があります。
一般的には、NPVとIRRのどちらを見るかの分かれ目として次のような考え方があります。
- 資金の制限が少なく、単一のプロジェクトを評価する場合は、NPVを重視して判断する。
- 限られた資金を複数の事業に分配することを考える場合は、IRRを重視して判断する。
IRRを用いるケースとNPVを用いるケースについて、詳細を以下の記事に記載しました。

IRRは解が出ない場合がある
②のIRRの解が出ない場合とは、下表のように期の途中にマイナスが出てしまう場合です。(期の途中にマイナスが出ると必ず解が出ないわけではありません)
(単位:万円)
現在 | 1年目 | 2年目 | 3年目 | 4年目 | |
例1 | -5 | 8 | 8 | 8 | -25 |
例2 | -15 | 8 | -5 | 5 | -5 |
これをグラフで視覚化すると次のようになります。

例1だと、グラフが横軸と2回交わっているので、IRRが2つ存在してしまいます。
例2だと、グラフが横軸と一度も交わらないので、IRRが存在しません。
まとめ
以上がIRRの解説でした。
- 複利計算に基づいた、投資に対する収益率(利回り)のことで、NPVの累計がゼロになるときの割引率とも言い換えられる。
- IRRを使うことで、タイミングの異なる支出、収入に対する利回りを正確に求められる。
- 計算自体は大変複雑だが、エクセルのIRR関数を使うと簡単にIRRを求められる。また、XIRR関数を活用することで、年単位に限らず、日にち単位での利回りを求めることもできる。
- 特に資本制約があり、限られた資源の中で、どの投資案件に投資をするかを判断する際に役立つ。
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