仕事術

【意思決定のプロセス】ドラッカーが提唱する5つのステップ

【意思決定のプロセス】ドラッカーが提唱する5つのステップ

日々の仕事の中には多くの意思決定の場面があります。

一般的には職位が上がれば上がるほど、意思決定が及ぼす影響は大きくなり、意思決定をする際のプレッシャーも大きくなります。

このように意思決定は決して簡単ではありませんが、40年以上も前に意思決定のプロセスを明快に述べた人がいます。

それが、経営学者・コンサルタントとして有名なピーター・ドラッカーです。

ピーター・ドラッカーの著書「経営者の条件」で、意思決定をするための5つのステップが明快に示しています。(この本は、アマゾンCEOのジェフ・ベゾスが経営幹部に読ませる本としても有名です。)

今回は、ピーター・ドラッカーが提唱する意思決定のための5つのステップを私の解釈も交えながら解説していきます。

質の高い意思決定をできる人は、仕事ができる人でもあります。

この記事が、質の高い意思決定ができる人になる助けになれば幸いです。

ステップ1:問題の種類を特定する

意思決定をする上で、まず重要となるのが問題の種類を特定することです。

問題の種類は以下の4つです。

  1. 基本的な問題の兆候にすぎない問題(例:在庫切れや仕事の手戻りなど、日々生じる問題。ただし、根本原因を見つけずに対症療法的に解決しているといつまで経っても解決しない問題でもある。)
  2. 当事者にとって例外ではあるものの基本的な問題(例:M&Aは当事者にとっては特別なことであっても、世間一般で見ると特別なことではない。)
  3. 本当に例外的に起こる問題(例:原子力発電所や航空機などで、イレギュラーなことが重なって起きる万に一つの事故など。)
  4. 新しい種類ではあるものの、実は基本的な問題の最初の表れであること(例:初めて起こる航空機事故は新しい問題だが、基本的な解決策がないと何度でも同じ原因で事故が起こってしまう)

3の例外的な問題以外は、基本原則によって解決すべきで、一度基本原則が出来上がれば、将来同じ問題が起きてもオペレーションの中できます。

そのため、意思決定で大きな成果を上げるためには、問題の分類に時間をかける必要があるとドラッカーは説いています。

ステップ2:意思決定が満たすべき必要条件を明確にする

問題が特定できたら、決定の結果、成果が出せたと言える基準・必要条件を明確にします。

つまり、達成すべきゴールを決めるのです。

必要条件が十分に理解できていないまま意思決定をしてしまうと、そもそも成果を測ることができなくなってしまうので、その意思決定がよい意思決定だったのか、悪い意思決定だったのかを評価できなくなってしまいます。

必要条件を考える際には、以下の問いを考えます。

この問題を解決するために最低限必要なことは何か?

たとえば、ある事業から撤退するかどうか?を意思決定するときに、考えられそうな必要条件には以下のようなものがあります。

  • 従業員の雇用は確保できるか?
  • 会社はこの先10年、20年と発展できるか?
  • 株主の期待に答えられるのか?

もし、最低限必要なことが、10年、20年先まで会社を発展させることだと定義をしたなら、それを最優先で満たせる意思決定をするべきでしょう。

ステップ3:何が正しいかを知る

問題を特定して、必要条件を定義できたら、何が正しい姿かを考えるます。

言い換えると、あらゆる妥協を一旦脇に置いたときに、何が最も理想的な解決策であるか?ということです。

妥協とは、たとえば以下のようなことです。

  • あの人が反対するかもしれないから、あの人に受け入れてもらえそうな案にしよう。
  • お金が足りないから、今のお金の中でできるアイデアにしよう。
  • 従業員の能力が不足しているから、従業員の能力に見合ったやり方にしよう。

始めからこうした妥協を考慮に入れてしまうと、正しい解決策を導けなくなってしまいます。

ドラッカーはこの点に関して、次のように言い切っています。

そもそも「何が受け入れられやすいか」「何が反対を招くからいうべきでないか」を心配することは無益であって時間の無駄である。心配したことは起こらず、予想しなかった困難や反対が突然ほとんど対処しがたい障害となって現れる。換言するならば、「何が受け入れられやすいか」からスタートしても得るものはない。それどころか通常この問いに答える過程において大切なことを犠牲にし、正しい答えはもちろん成果に結びつく可能性のある答えを得る望みさえ失う。

出典:経営者の条件

勘違いしてはいけないのは、妥協をするなということではなく、正しい解決策を明確にすることで、正しく妥協できるようになるということです。

正しい妥協とは必要条件の全部または一部分を満たすことができる妥協です。

たとえば、昼食の必要条件が「素早くお腹を満たす」だったとします。

このとき、行こうとしていたラーメン屋が休みだったので、近くの牛丼に行くという意思決定をした場合、必要条件から考えると正しい妥協でしょう。

しかし、ラーメンにこだわって遠くのラーメン屋を探すとか、麺類にこだわって食事が提供されるまで時間のかかるイタリアンを選ぶという妥協は、必要条件から考えると誤った妥協になってしまいます。

ステップ4:意思決定を行動に変える

意思決定されたことは、行動を伴って初めて成果に結びつきます。

ドラッカー曰く、意思決定において最も困難な部分が必要条件の検討であるのに対して、最も時間のかかる部分が決定を行動に移す段階です。

決定を行動に移すためには、以下の問いに対する答えを明らかにする必要があります。

  • 誰がこの意思決定を知らなければならないか?
  • いかなる行動が必要か?
  • 誰が行動をとるか?
  • その行動はいかなるものであるべきか?

ドラッカーは、人は往々にして最初と最後の問いを忘れがちで、忘れたまま意思決定をすることでひどい結果を招くこともあるとしています。

実際に、会議で決まったことが実働部隊に十分に周知されていなかったり、意思決定されたことを間違って解釈されてあらぬ方向に仕事が進んでしまったりというケースも少なくありません。

また、誤った人選をすることで、あるべき行動がとられないというケースもあります。

新たに推進する新規事業の責任者に、保守的で新規事業経験のない部長を任命しても、あるべき行動をとってくれる可能性は極めて低いでしょうし、まわりも「本気で新規事業を進める気がない」という捉え方をしてしまうでしょう。

ステップ5:結果をフィードバックをする

人の意思決定は、間違える可能性があります。

また、そのときは正しかった意思決定も、時間が経つにつれて正しくない意思決定になっていく場合もあります。

こうしたことから、意思決定をする際には結果をフィードバックできる仕組みを入れる必要があります。

これに関しては、ドラッカーの著書の中に次のように言っています。

軍では決定を行った者が自分で出かけて確かめることが唯一の信頼できるフィードバックであることを知っている。

(中略)

あらゆる国の軍が、命令を出した将校が自ら出かけ、確かめなければならないことを知っている。少なくとも副官を派遣する。命令を受けた部下からの報告を当てにしない。信用しないということではない。コミュニケーションが当てにならないこおとを知っているだけである。

(中略)

自ら出かけ確かめることは、決定の前提となっていたものが有効か、それとも陳腐化しており決定そのものを再検討する必要があるかどうかを知るための、唯一でなくとも最善の方法である。

出典:経営者の条件

意思決定した後の進捗管理は担当者に任せっきりにして、現場を確かめずに報告書を見たり、プレゼンを聞いたりするだけ。

こういう管理職も少なくないかとは思いますが、ドラッカーはこれだと意思決定の質としては十分でないと言っているのです。

したがって、意思決定の際には、以下のことも合わせて決めておく必要があるのでしょう。

  • 誰が
  • 何を
  • どのように
  • どのくらいの頻度で
  • 確認するか

自ら現場に赴いて状況を確認することが最も効果的なのでしょうが、それが無理な場合でも誰かに確認をさせてフィードバックを得る仕組みを意思決定をしたときに一緒に決めておくことが大事なのでしょう。

まとめ

以上、意思決定プロセスにおける5つのステップについての解説でした。

  • 意思決定の5つステップは、問題の種類を特定する、意思決定が満たすべき必要条件を明確にする、何が正しいかを知る、意思決定を行動に変える、結果をフィードバックする。
  • ステップ1:問題の種類は4つに分けられるが、例外的な問題以外は基本原則によって解決すべき。
  • ステップ2:必要条件を考える際には、「この問題を解決するために最低限必要なことは何か?」という問いに答える。
  • ステップ3:正しいとは、あらゆる妥協を一旦脇に置いたときに、何が最も理想的な解決策であるかということ。まわりに受け入れられやすい解決策から考えない。
  • ステップ4:意思決定を行動に変えるためには、「誰がこの意思決定を知らなければならないか?」「いかなる行動が必要か?」「誰が行動をとるか?」「その行動はいかなるものであるべきか?」という問いに答える。
  • ステップ5:意思決定の段階で実行した結果をフィードバックする仕組みを作る。最も最善の策は、自ら実行されている現場を確認すること。