管理会計

TOCスループット会計とは【計算式・意味・活用方法】

 

スループットとは、売上高から原材料費や外注費などの変動費の中でも真の変動費と呼ばれる費用を引いたものです。

スループットの計算式

スループット = 売上高 - 原材料費・外注費(真の変動費)

利益 = スループット - 業務費用

管理会計における伝統的な間接費の配賦は、ときに企業の意思決定を誤らせてしまい、それこそが企業成長の制約(ボトルネック)になってしまう。

そのような制約を取り除くための会計手法が、スループット会計です。

スループット会計は、TOC理論を考えたエリヤフ・ゴールドラット氏によって提唱されたもので、TOC理論のベースにもなっているので、TOCスループット会計とも呼ばれています。

この記事では、「スループット会計」の意味合いや計算方法について解説していきます。

>>スループット会計の教科書

 

伝統的なコスト計算(間接費の配賦)の問題点

伝統的なコスト計算で用いられる間接費の配賦には、以下2つの問題点があります。

  1. 間接費の配賦によって原価が変わる
  2. 作れば作るほどコストが下がる

伝統的なコスト計算方法を用いると、製品1個あたりのコストは次のように計算されます。

コスト = 直接原価 + 間接原価 + 販売管理費

この中で、製品1個あたりにかかった間接原価や販売管理費を厳密に計算するのは難しいため、妥当と思われる方法で1個あたりに配賦する必要があります。

間接費用の配賦方法としては、直接原価の比率での配賦、ABC(活動基準原価計算)のような手法を通じての配賦などが考えられます。

関連記事:間接費の配賦方法・パターン

間接費配賦の問題点1:間接費の配賦によって原価が変わる

間接費の配賦による1つめの問題は、配賦の考え方を変えるだけで製品の原価計算に大きな差異が生じることです。

間接費を配賦する原価計算手法が編み出された当時は、直接費に比べて間接費の割合が圧倒的に少なかったので、大きな問題はありませんでした。

しかし、近年の企業活動では、生産活動に直接的に関与しないホワイトカラーと呼ばれる人たちの数が増えているため、間接費の割合が大きくなっています。

そのため、間接費の配賦方法によって意思決定が変わる可能性を生じてしまいます。

間接費配賦の問題点2:作れば作るほどコストが下がる

間接費の配賦によるもう1つ問題点は、作れば作るほど計算上のコストが下がることです。

伝統的な原価計算だと、一定期間のうちに製品をたくさん作って、配賦される間接費を薄めることで見かけのコストを簡単に削減できてしまいます。

以下の計算式からもわかるように、生産量が増えれば、1個あたりの間接原価や販売管理費の配賦が小さくなるので、その分だけ見かけのコストを下げられます。

コスト = 直接原価 + 間接原価 + 販売管理費

しかし、生産量を増やすと売れない製品が在庫として残るので、結果として企業のキャッシュフローを悪化させてしまいます。

いくら計算上の原価を下げられても、これでは企業活動にとってはマイナスしかありません。

 

スループット会計とは・利点・意味合い

スループット会計とは、売上高から真の変動費をひいたスループットをベースに意思決定をする会計方針のことです。

企業活動の根幹は、仕入れた材料を売上に変える活動です。

そこでゴールドラット氏は、企業活動の根幹を忠実に表現できる会計指標としてスループットを考え出しました。

スループットの計算式は、以下のとおりです。

スループット = 売上高 - 原材料費・外注費(真の変動費)

利益 = スループット - 業務費用

スループットはTOC理論の重要概念なので、TOCスループットとか、TOCスループット会計などと呼ばれます。

関連記事:TOC制約理論とは【ボトルネック解決に集中した問題解決理論】

スループット会計における在庫の扱い(販売されたら利益になる)

スループット会計の特徴の1つは、在庫が売れたときに初めて利益を計上することです。

伝統的なコスト計算や会計方針では、仕入れて在庫したものは貸借対照表の資産に計上され、物が売れたときに初めて原価として損益計算書に計上される仕組みになっています。

しかし、この考え方では、不要なものを生産して在庫を溜めると計算上の原価を下げることになり、在庫が売れてもいないのに利益を多く見せること可能になります。

キャッシュフローを良化するという企業本来の目的から考えると、在庫は買ったときに原材料費として計上すべきです。

そこで、スループット会計では、在庫を作ったら、かかった原材料費、業務費用をすぐに計上するという原則を加えました。

このような原則にすると、在庫を不用意に積み上げる行為がスループットの減少として表れるようになります。

つまり、在庫は販売されない限り、利益にならないことを原則しているのです。

スループットを高めるためには、在庫を少なくするか、持っている在庫を少しでも早く販売して利益に変えることが重要になるので、会計方針と企業活動の本来の意図を合致できます。

スループットにおける間接業務の扱い(配賦しない)

スループット会計のもう1つの特徴は、間接業務の費用は配賦しないことです。

間接業務の費用を製品ごとの費用として認識させるのは難しいので、最初からやらない前提にしているのです。

スループット会計では、原材料費や外注費などの真の変動費と、業務費用のような間接費を次のように解釈しています。

原材料費・外注費 = 何を作るために使った費用か
業務費用 = 何をするために使った費用か

ゴールドラット氏は、「何をするために使った費用か」が業務費用の意味なのに、それを無理やり「何を作るために使った費用か」に置き換えることが自体が意味のないことだと考えたのです。

 

スループットと限界利益

スループットとよく似た計算式になっているのが、限界利益です。

限界利益 = 売上 - 変動費

利益 = 限界利益 - 固定費

この式を見る限り、スループットと限界利益とほぼ同義に見えます。

しかし、限界利益にはTOC理論の重要な前提が欠けているとされています。

それは、

システムにつながりとばらつきがあると必ずどこかに制約(ボトルネック)ができ、スループットは制約によって律速されてしまう

ということです。

システムの制約を会計に取り入れることで、何をすると儲かって、何をしても儲からないかがシンプルにわかる。

それがTOCスループット会計なのです。

制約が意思決定にどのように影響するかは、後ほどの事例で解説していきます。

関連記事:原価分解とは 変動費と固定費の仕分け 勘定科目法と最小二乗法

 

TOCスループット会計の活用例

TOCスループット会計を活用すると、以下のような問いに対してより正しい答えを導けるようになります。

  • どの製品を作って売ると儲かるか?
  • 内製すべきか、外製すべきか?
  • 投資をすべきか?投資をやめるべきか?
  • 出荷の遅れに対する評価をどのようにすべきか?

製品の収益性の判断

仮にある会社の製品A、Bのスループットがそれぞれ、以下のようになっているとしましょう。

  • 製品A:500円
  • 製品B:300円

これを見ると、製品Aを作った方が儲かるように見えますが、本当にそうなのでしょうか。

制約がなければ、製品Bをやめて製品Aを作り続けた方が間違いなく儲かりますが、もし制約がある場合はどうでしょうか。

製品A、Bの制約が同じ箇所(たとえば同じ生産設備にある)にある場合、製品A、Bそれぞれの制約消費時間と、制約消費時間あたりのスループットを考える必要があります

もし、製品A、Bの制約消費時間と、制約消費時間あたりのスループットが下表のようだとすると、製品Aを作るよりも、製品Bをたくさん作ることに今の制約を集中させる方が正しい判断になります。

商品A商品B
スループット500円300円
制約消費時間4分2分
スループット/制約消費時間125円/分150円/分

このようにTOCスループット会計では、単にスループットの大小を考えるだけでなく、制約消費時間あたりのスループットが大事なのです。

内製・外製の判断

内製している製品のコストが高いと考えて、購入価格の安い外製に切り替えると、見かけ上はコストが下がったように見えるでしょう。

しかし、実際はその製品に配賦されていた間接費用が他の製品に配賦される結果となり、会社全体としては、むしろコストが上がってしまうケースもあるのです。

したがって、内製・外製を検討する際には、会計上配賦される間接費用を除いてスループットの大きさだけで考える必要があります。

ただし、スループットが低くなっても外製した方がよいケースがあります。

それは、外製をすることによって、社内の制約を他の製品に対して活用することができ、全体としてスループットを改善できる場合です。

ここでも、制約の能力が何に使われるかを考えることが鍵になってきます。

関連記事:Make or Buy 内製・外製の意思決定 その判断基準・ポイント

投資の判断

スループット会計では、投資判断のポイントは以下の2つになります。

  • その投資が制約の能力を高める(=スループットが上がる)
  • そのスループットで投資が回収できるか

もし、制約の能力が上がらなければ、スループットが上がることもないので、その投資の意味はありません。

たとえば、制約になっていない古い生産設備を最新の生産設備にして、その機械の生産性が2倍になったとしても、生産工程全体のスループットが改善しなければ意味がありません。

むしろ、新しい生産設備のところで仕掛品が滞留するので、生産性の悪化を招くおそれがあります。

考えてみれば当たり前のことですが、実際には非制約への投資がいかにも業績改善につながるように見えて、投資GOの判断をしてしまうことも少なくありません。

もちろん、仮に制約への投資であっても、増加したスループット分で投資を回収できなければ、やはり投資をする意味がないと判断できます。

納期遅れに対する評価

もし顧客から要望された納期に対して、出荷が遅れてしまうと、会社としては大きな機会損失になります。

納期遅れを管理する指標として納期遵守率がありますが、納期遵守率の課題は金額の大小が考慮されていないことです。

ゴールドラット氏は、出荷遅れに対する機会損失に対してより正確な評価をするためにスループットを使えると考えました。

その計算式がこちらです。

スループットダラーデイズ(Throughput Doller Days)

= 遅れたオーダーのスループット × 遅れた日数

このように考えることで、単に納期遵守できたかどうかだけでなく、金額の大小と遅れた日数まで評価できるようになります。

スループットダラーデイズには、以下2つの特徴があります。

  • 金額の大きなオーダーが遅れるほど損失したスループットが大きくなる
  • 遅れた日数が長ければ長いほど損失したスループットが大きくなる

単に納期が遵守できたかどうかだけでなく、そこに金額と日数を盛り込めるスループットダラーデイズは極めて合理的な指標と言えるでしょう。

なおゴールドラット氏は、在庫の評価に関しても同様に金額規模だけでなく在庫している日数が重要だとして、以下のような指標を提言しています。

インベントリーダラーデイズ(Inventory Doller Days)

= 在庫金額 × 在庫日数

 

まとめ

以上、TOCスループット会計の解説でした。

  • スループットとは、スループット(売上ー原材料費・外注費)を基軸にした会計指標で、物を作るために使ったお金をスループットとして考え、それ以外の何かをするために使ったお金を業務費用として考える。
  • 従来の原価計算では、生産量を増やして在庫を溜めるほどコストが下がったが、スループット会計だと在庫を増やすとスループットが減ってしまう。言い換えると、在庫は販売されて初めて利益になると考えている。
  • 従来の原価計算は、企業が成長をしていく上での制約(ボトルネック)にすらなっていた。スループット会計を活用することで、企業活動の真の目的であるキャッシュの獲得に直結できる。
  • スループットと制約を考えるとことで、どの製品が儲かるか、内製・外製の判断、投資の判断、納期遅れの評価などを正しく判断できるようになる。

なお、TOCスループット会計の本質は、以下の本に全て書かれていますので、もっと深く知りたい方は、ご一読ください。